認知症には、原因となる疾患によって、いろいろな種類があります。
まず、脳のニューロン(神経細胞)が異常に変化または減少することによって発症するのが変性性認知症。アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、パーキンソン病、前頭側頭型認知症などがこれに分類されます。
一方、何らかの疾患や外傷の影響を受けて発症する認知症を二次性認知症といい、血管性認知症、正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫などがこれに当たります。
日本では、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症が4大認知症といわれており、なかでも最も多いのがアルツハイマー型認知症です。
また、なかには混合型認知症を発症するケースもあり、一番頻度が多いのはアルツハイマー型認知症+血管性認知症です。
もくじ
アルツハイマー型認知症とは
アルツハイマー型認知症は、ご承知のとおりアルツハイマー病が原因で起こります。アルツハイマー型認知症では記憶に関わる海馬の神経細胞が、まず変性します。そのため、高度な記憶障害が起こりやすいのがアルツハイマー型認知症です。
ニューロンの集まりである大脳皮質に変性が起こり、ニューロンが死滅、減少して脳が萎縮していくのが特徴で、脳が萎縮することによって、その箇所の脳血流が低下し、さらにニューロン間で情報を伝えていた神経伝達物質も失われてしまい、障害された部位が担当していた認知機能が低下していくのです。
発症と進行は比較的穏やかですが、放置すれば確実に悪化していきます。
アルツハイマー型認知症の脳の中では、「老人斑」と「神経原線維変化」という特徴的な構造変化が起こっています。
老人斑
老人斑というのは、アミロイドβという神経細胞毒性の強いタンパクが、ニューロン外に沈着したものです。本来は老廃物として脳から排出されるべきものなのですが、アルツハイマー病ではそれがうまく行われないため、老人斑が出現してしまうのです。
この老人斑ができてカら10〜20年の間に、ニューロンの中にタウというタンパク質が凝集し、ニューロンが死んでアルツハイマー病が発症するといわれていましたが、最近では塊をつくっていないアミロイドβがニューロン内のタウを凝集させ、アルツハイマー病を発症させるとも考えられています。
タウは、ニューロンで発現している微小管随伴タンパクで、普段は細胞骨格において大切な役割を果たしていますが、そのタウが正常な機能を失い、脳のニューロンの中に異常な線維をつくってしまうのです。それが、脳ニューロンの死滅を招くことになるのです。
脳が萎縮する
脳の重さは、成人では通常1400g前後ありますが、アルツハイマー病発症後10年くらい経つと800〜900g以下に減ってしまいます。これは脳が萎縮した証拠です。
まず最初にニューロンが減る部分が、側頭葉の海馬と呼ばれる部分です。この海馬は短期記憶を司る場所なので、「少し前のことが思い出さない」という記憶障害が、病気の初期で起こってくるのです。
ただし萎縮の程度は、高齢になるほど個人差が大きく、典型例ばかりではありません。アルツハイマー型認知症のうち、約3割は、海馬の萎縮が顕著ではないといわれています。
糖尿病の場合、発症リスクが約2倍
また、多くの研究で、中年期の生活習慣病が、高齢期の認知症発症に関与すると報告されています。とくに糖尿病の場合は、発症リスクが約2倍になるといわれています。
アルツハイマー型認知症と血糖値に深い関係があることが、臨床データからわかっています。糖尿病の人は、血糖値が正常な人に比べて、2倍近くリスクになりますし、糖尿病予備軍の人もリスクが高くなっています。
つまり、脳がブドウ糖を使えなくなったため、ガス欠のような状態に陥り、認知機能が低下していると考えられます。
アルツハイマー型認知症の症状
早期の症状
短期記憶障害など
軽度の症状
迷子になる
買い物時に支払いが困難になる
質問を繰り返す
物を失くしたり、置き忘れたりする
感情および人格の変化
中等度の症状
記憶障害が悪化する
自動車の運転ができなくなる
家族や友人を認識しにくくなる
季節にあった服が選べない
複数の手順による作業(着替えなど)が困難になる
暴言、暴力、徘徊など問題行動が起こる
高度の症状
コミュニケーション能力の喪失
家族や身近な人のことがわからなくなる
妄想や幻覚などが頻繁に出現
身体機能の低下も伴い、すべての生活に介護が必要となる
遺伝しない孤発性アルツハイマー病
アルツハイマー病には、遺伝的な要因による「家族性アルツハイマー病」と、遺伝とは関係のない「孤発性アルツハイマー病」がありますが、ほとんどを占めているのは後者です。
また、家族性アルツハイマー病の場合、若くして症状が現れるケースが多くで、65歳以下で発症する「若年性アルツハイマー摘」のほとんどが家族性アルツハイマー病であることが報告されています。
家族性は1%程度、99%は孤発性アルツハイマーと言われています。アルツハイマー型認知症のほとんどは家系的な遺伝ではない、孤発性です。
アルツハイマー型認知症の診断
アルツハイマー型認知症は他の認知症より診断が困難といわれています。
診断基準の特徴は、記憶障害を必須症状としない点です。何らかの認知機能障害が原因で生活に支障をきたしており、他の疾患が背景にない場合には、アルツハイマー型認知症と診断できます。
アルツハイマー型認知症では、記憶機能などの高次脳機能が徐々に損なわれていきます。進行すると、自立した生活が困難になります。
老人斑などの出現後、すぐに症状が出るわけではありません。軽い物忘れ程度の前段階を経て、慢性的に進行し、さまざまな症状が発現。早ければ4〜5年、長ければ10数年、平均8年ほどで死に至るといいます。