脳血管性認知症とは、脳血管障害に起因する認知症の総称で、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの脳血管障害を起こした後、その後遺症として発症する認知症です
もくじ
脳血管性認知症の特徴
脳血管性認知症は、脳梗塞、脳出血やクモ膜下出血など様々な脳卒中病型により引き起こされるので、血管性認知症の病態は多様であり、脳卒中を繰り返して段階的に認知機能が低下することもあれば、単一の脳卒中で認知症を発症することもあります
脳血管性認知症の原因として最も多いのは、小さい梗塞が多発した多発性脳梗塞で、そのほとんどが多発性ラクナ梗塞といわれる疾患です
多発性ラクナ梗塞は、まったく無症状であることも多く、本人が発症したことに気つかないことも珍しくありません。しかし、10年以上経過すると、高い確率で認知症を発症することが知られています
脳血管性認知症では、初期に、記憶障害のほか、頭痛、めまい、麻痺など、さまざまな身体症状が出現します
また、障害された場所によって症状が異なるため、アルツハイマー型と同じように、物忘れや計算ができなくても、判断力の低下は見られないなど、「まだら認知」といわれる状態が起こります
1日の中でも、例えば意欲がなくボーっとしていて何もできないときと、はっきりしていて、できないと思っていたことがちゃんとできる場合があります
さらに、しばしばうつ状態に陥り、些細なことで怒りやすいのも特徴の1つです
脳血管性認知症の症状
脳血管性認知症の主な症状は以下の通りです
・頭痛、めまい、麻痺
・歩行障害(小刻みに歩く)
・頻尿、尿失禁
・声をうまく出せない(構音障害)
・食べ物をうまく飲み込めない(嚥下障害)
・意欲や自発性が低下する
・うつ
脳血管性認知症に特有の症状
脳血管障害の症状は病変部位によって異なりますが、おもに下記の5つが現れやすい症状です
①感情、欲求の抑制障害
場違いに泣いたり笑ったりする「感情失禁」を起こす。感情を抑えることができず、突然笑ったり、怒ったり、泣いたりする(感情失禁)。また、欲求をコントロールできず、物を無制限に欲しがったり、金銭を浪費したりします
②実行機能障害
計画、意思決定、実行のプロセスが障害される。遂行機能障害ともいいます。献立を決めて買い物に行き、段取りを考えて調理するというような、計画遂行の一連の作業ができなくなります
③アパシー
うつ病に似た印象だが悲壮感に乏しい。自発性や意欲の低下した状態をアパシーといい、脳血管障害後によくみられます。うつ病と似ていますが、うつ病とは異なり、悲壮感があまりありません
④注意障害
脳血流が低下して集中力が保てない。前頭葉の血流や代謝が低下するために、対象に適切に注意を向けることができず、間違いが増え、疲れやすくなります。
⑤巣症状、仮性球麻痺
特定の病巣に対応して麻痺などの症状が出る。脳の病巣に対応して、片麻痺や失語、失行・朱認などの症状が現れる。嚥下や発語に関する神経が障害される仮性球麻痺により、物をうまく飲み込めない嚥下障害や、言葉を正しく発音できない構音障害の症状が現れます
生活習慣病も原因になる脳血管性認知症
脳血管性認知症の原因となる脳血管障害は、動脈硬化が基礎にあって起こります
血管の壁が硬く厚くなり、血流量が低下するもので、最大の危険因子は加齢です。歳とともに誰にでも起こり、脳の動脈では10代から動脈硬化がはじまるといわれています
この動脈硬化の進行を加速させるのが、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病です
なかでも、高血圧が重要な危険因子と考えられています。高血圧が長期間続いていると、認知症になりやすいラクナ梗塞やビンスワンガー病を引き起こすからです
これらの危険因子は、アルツハイマー型の危険因子とも重なります。両者が合併する混合型認知症も多いことから、その関連性が注目されています
脳血管性認知症の発症リスクは高血圧、糖尿病などの生活習慣病です。予防には、健康的な生活が何より重要です
血圧管理が重要
脳梗寒、とくに無症候性の脳梗塞をくり返していると、認知症のリスクが高くなる脳梗塞の発症を防いで症状を進行させないためには、血圧管理が重要です
血圧管理と認知機能との直接的な関連については、60歳以上の高血圧患者を対象に、降圧薬とプラセボ(偽薬)を用いた比較試験がおこなわれています。降圧薬を使ったグループは、MMSE(認知症のスクリーニング検査)が軽度ながら改善しました。
ただ、80歳以との高齢者では、血圧管理が認知機能の低下を抑制しなかったとの報告もあり、さらなる研究が必要とされます。
なお、ごくまれな疾患ですが、遺伝性の血管性障害もあります。
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の違い
アルツハイマー型認知症は初期から記憶障害が現れ、徐々に進行しますが、脳血管性認知症では意欲低下などが先に現れます
脳血管障害の再発などをきっかけに、階段状に進行し、会話の障害、記憶障害などの症状も発現します
脳血管性認知症は、別名「まだら認知症」といいます。比較的しっかりしてみえるのに、記憶がところどころ抜け落ちています
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症の違い
アルツハイマー型認知症 | 脳血管性認知症 | |
年齢 | 75歳以上に多い | 60歳代から |
性別 | 女性に多い | 男性に多い |
経過 | ゆっくり単調に進む | 一進一退をくり返して段階的に進む |
自覚 | ほとんどない | 初期にはある |
神経症状 | 初期には少ない | 手足の麻痺やしびれが多い |
持病との関係 | 持病との関係は少ない | 高血圧などの持病が多い |
特徴的な傾向 | 落ち着きがない | 精神不安定になることか多い |
認知症の性質 | 全体的な能力の低下 | 部分的な能力の低下(まだら認知症) |
人格 | 変わることが多い | ある程度保たれる |
まだら認知症
脳血管性認知症は、上記のように「まだら認知症」ともよばれます。アルツハイマー型認知症などでは認知機能が全般的に低下するのに対し、脳血管性では、認知機能がまだら状に保存されるからです。
たとえば、新しいことを覚える力は低下していますが、理解力や判断力は保たれています。アルツハイマー型認知症に比べて、人格の核心も保たれる傾向があります。
経過は、何らかの要因によって階段状に進行します。悪化の要因としては、脳血管障害の再発や感染症の合併、ほかの認知症との合併、頭部打撲、大腿骨骨折などがあります。また、アバシー(自発性や意欲の低下)が強い場合は、ひきこもり生活になりやすいです。すると、社会的な刺激が減るために、病状が悪化することもあります。
脳血管性認知症では、意識レベル(覚醒度)に波があるのも、特徴です。意識がはっきりして活動的なときと、ボーッとして反応が鈍いときがあり、1日から数日の周期で変化します。
脳血管性認知症は減ってきている
脳血管性認知症患者数の相対的比率は年々低下しています。その要因の1つとして、脳卒中予防の啓発が進み、血管性認知症が減ってきたことが挙げられます
しかし、実際には、平均寿命が延びて後期高齢者が増加したこと、そして、核家族化と社会の高度情報化により、意味記憶、手続き記憶が保たれていても、エピソード記憶が損なわれたお年寄りには暮らしにくい社会になり、かっては天寿を全うしていたアルツハイマー病の病理を持つ後期高齢者が顕在化し、アルツハイマー型認知症の診断を受けるようになったことが最大の要因です
高齢のアルツハイマー型認知症では、様々な程度で脳血管障害を合併し、それが認知症の発症に関わっていると思われる方が相当数いるといいます。また、脳血管性認知症患者の絶対数もそれほど減少しているわけではありませんし、脳血管性認知症の危険因子の多くはアルツハイマー型認知症の危険因子と重複しています
アルツハイマー型認知症は増えたが、脳血管性認知症、脳卒中予防の重要性はむしろ高まったという認識を持つことが大切です