うつ病は壮年者に多いと考えがちですが、実際は高齢者でも多くみられます
うつ病は認知症の症状と重なることも多く、違いを見分けることが難しいものです。ここでは、うつ病と認知症との違いを詳しく解説します
うつ病と認知症との違い
うつ病と判別が難しい症状は、認知症の症状であるアパシー(無為・無関心)と呼ばれるもので、この2つの症状は認知症の場合重なることもあります
そのため、うつ病と認知症との違いを見分けることが難しいのです
以下に、うつ病と認知症との違いの一覧を紹介します。この一覧がある程度うつ病と認知症との違いを見分けるポイントになります
うつと認知症の違い一覧
うつ病 | 認知症 | |
年齢 | 75歳未満に多い | 75歳以上に多い |
通帳など大事な物の場所は覚えている | はい | いいえ |
大事な物が「盗まれた」と言うか | いいえ | はい |
同じことを何度も尋ねるか | いいえ | はい |
物忘れを自覚しているか | はい | いいえ |
仕事・家事はできるか | 時間はかかるができる | 間違い・ミスが多い |
コミュニケーションの問題 | 口数は少ないが、文法の間違いが少ない | よく話すが、言葉の繰り返し、文法の間違いが多い |
家の鍵はかけるか | はい | かけ忘れる |
自殺願望があるか | たまにある | いいえ |
気分の変化はあるか | 基本的に落ち込んでいる | 変化する |
食欲不振、体重減少はあるか | はい | それほどない |
倦怠感はあるか | はい | それほどない |
高齢者のうつ病の特徴
高齢者のうつは目立ちにくいものです
高齢者のうつの診断は難しく、かなり重症化するまで治療を受けず放置されることがしばしばあります。このようなことに陥る原因はうつ症状が実際の身体症状に隠れてしまう場合や不定愁訴や気分的な訴えに隠れてしまうことが多いからであり、また、認知症との鑑別が困難なことも少なくないからです
高齢者のうつ症状は以下の通りです
高齢者のうつ症状
- 自分の身の回りのことはできることが多い
- 気分の落ち込みと自発性の低下が出ることが多く、運動制止症状などの明らかな症状がみられることは少ない
- 気分の落ち込みさえ明確にみられない場合もあり、その際は身体的な症状(4のような症状)が出ることが多い
- 不定愁訴症状、心気的症状ないしは身体症状を訴えることが多い(不眠、疲労感、めまい、頭重、頭痛、肩こり、食思不振、便秘、下痢、腹痛、胸痛など)
- 被害妄想、罪業妄想、心気妄想などの妄想
これらの症状には注意が必要ですが、はっきりと「うつ病」と診断する方法はないのが現状です
認知症で見られるアパシー(apathy)とうつ病
認知症の症状の一つであるアパシー(apathy)は、「a(無)+pathy(感情)」、つまり、「無感情」を示します
また、うつ病を表すdepressionは、「de(下へ)+press(圧する)」、つまり、「押し下げられた状況」を示します
アパシーは、「外見的に観察される活動性の低下、もしくは感情表出の低下」と考えられます。
一方、うつ(depression)は「外見的に悲哀感や憂うつ感が観察されます。うつは、認知症では、初期〜中期にかけてみられることが多いですが、アパシーは重症度が高くなれば、その頻度は増え、程度も強くなる傾向があります
薬物治療は、うつに対しては、SSRI;選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの副作用の少ない抗うつ薬が少量から処方されます
また、アパシーに対してはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト)が処方されますが、認知症の進行に伴い、服薬量を増量する必要があります
アパシーとうつが混在
認知症の初期〜中期にかけては、アパシーとうつが混在することもあり、うつ病か認知症かの判断に苦慮することが少なくありません
確定的にするためには、詳しい認知機能検査、MRI検査に加えて、SPECTやPETなどという脳機能画像検査が必要になります
PETが初期の変化をとらえるには最善ですが、PETにはこのような目的での検査に保険適用がなぐ現状ではかなりの金額が自費負担になってしまいます
また、診療の現場では、諸検査すべてを施行するには実際困難なことが多いのも事実です
このような場合、初期の治療を兼ねて、薬物治療に対する反応性から診断されることもあります。というのは、いたずらに経過を観察しているうちに、うつ状態や認知症が進行してしまう恐れがあるからです