軽度認知障害とは、認知症の前段階のことをいいます。認知症の早期治療の重要性が唱えられたことでこのような概念が急速に広まりつつあります
軽度認知障害の特徴、症状はどのようなものなのでしょうか?
もくじ
軽度認知障害とは
認知症は、「進行性の認知機能低下により、日常生活や社会生活に支障をきたす状態」
と定義されています。しかし、ある日突然、こうした状態になるわけではありません。神経細胞の変性は徐々に進行していくからです
認知症の手前のグレーゾーン
そこで、軽度の記憶障害はありますが、一般的な認知機能は問題がなく、日常生活にも支障のない状態を、軽度認知障害(MCI:mild cognitive impairment)と呼びます
軽度認知障害とは、本人が物忘れを訴えており、年齢に比べて記憶力が低下している状態を指します
軽度認知障害は日常生活動作や全般的な認知機能も正常なので、認知症とは言えない状態ですが、アルツハイマー病予防などの観点から注目されています
認知機能を調べるぺーパーテストや脳の血流を測る検査や脳の検査などで、決して健常とは言えない程度にまで認知機能が低下していることが判明したり、べー夕アミロイドの蓄積が進んでいることが示唆されたりした方で、日常生活に支障が出ているわけではない方たちは、「軽度認知障害」と分類されます
軽度認知障害は認知症予備軍という言い方もできるでしょう
前・軽度認知障害(プレMCI)
最初に、ほとんど自覚症状がないものの、認知機能を調べるぺーパーテストや脳の血流を測る検査などを行うと、健常な方よりも心持ち認知機能が落ちていたり、脳血流が低下していたりする方があぶり出されます。あるいは血液検査の結果で、低い割合ながら、べータアミロイドの脳内での蓄積が示唆された患者さんなどです
これらの患者さんを「前・軽度認知障害」あるいは「プレMCI」と分類することがあります。多少気になる部分はあるものの、まだまだ病的な状態とは呼べない方たちです。早い人では30代の後半でも、この段階に該当してしまう方がいます
軽度認知障害の特徴・症状
多少物忘れなどが気になる程度で、日常の生活に大きな支障があるわけではないのですが、何もしないと軽度認知障害患者の半数程度は、約4年のうちにアルツハイマー型認知症へと症状が悪化していくことがわかっています
たとえば昨日の晚ごはんのメニューが思い出せないというのは、もはやこの軽度認知障害に該当する可能性が大です。5品中3品は思い出せても、残りの2品が思い出せない。これでも十分該当します
また、人の名前を忘れてしまうことも同様に軽度認知障害の典型的な症状です
軽度認知障害の症状
- 本人または家族(介護者)による物忘れの訴えがある
- 客観的に記憶障害がある(新しいことが覚えられない、維持できない思い出せない)
- 日常生活は基本的にできる
- 全般的な認知機能は保たれている
- 認知症ではない
以前に何度か会ったことは覚えているが、名前が思い出せない。あるいは、この場所にきたことがあるのは覚えているが、なんの用事できたのかが思い出せない。また、一度通ったはずの道なのにったことがないと思っていたり、通い慣れた道に「あれ、ここにこんなものがあったかな?」と今まで気付かなかつたことに気付いたりすることも、実は「新たな気付き」ではなくて「物忘れ」をしている可能性があります
こうした段階の人は、この段階であればまだ医学的な治療や認知症対策の効果を期待できます。ぜひ、自身でのケアや医学的な治療に取り組んでいきましょう
悪化すると認知症へと移行
さまざまな検査の結果、認知機能の低下がもはや健常な水準を回復できないレべルに至ったと判断された段階で、そこから先は認知症という病気となってしまいます
認知症の症状にもかなり幅があるため、治療の現場では通常、初期、中期、後期の3段階に分けて、治療の内容を変えていくことが一般的です
軽度認知障害の症例を数年間調査すると、高い確率で認知症に進行することが明らかになっています。認知症と正常のあいだのグレーゾーン、または認知症の一歩手前の状態といえるでしょう。60歳、または55歳以上を対象にした調査での有症率は、11.17%だと報告されています
軽度認知障害と診断されても、全てが認知症を発症するわけではありません。認知症に進展する人の確率はおよそ5〜15%と報告されています
また、認知機能が元に戻るとこもあります。認知機能が元に戻るのは、脳が可塑性(回復力)をもつからです。神経細胞のネットワークはつねに変化し続けており、ある部分が使えなくなっても、ほかのネットワークをつなぎ換えることができます。また動物実験の結果では、運動習慣により、海馬の神経細胞が再生することが明らかになっています
4年後に半数が認知症に移行
軽度認知障害は、アルツハイマー型認知症への進展が多い症例群として注目されていました
しかし、死後の病理所見を調べたところ、アルツハイマー型は11%にすぎず、発病前のさまざまな疾患が含まれていたことがわかりました
アルツハイマー型だけでなく、あらゆる認知症に移行する
つまり、軽度認知障害は、アルツハイマー型だけでなく、レビー小体型認知症、脳血管性認知症など、あらゆる認知症に移行しうる疾患群だといえます。早い段階から対応するために、症状によって、将来の認知症のタイプを推測する方法も提唱されています
なお、高齢者では、肺気腫や心不全などの身体的な疾患でも、軽度認知障害に陥ることがあり、注意が必要です
軽度認知障害は、アルツハイマー型以外の認知症にも移行することもあります。しかし必ず認知症を発症するわけではなく、正常化することもあります
アルツハイマーへの移行率は年間10%
軽度認知障害がどの程度の割合で認知症になってしまうのかということですが、これまでに発表された研究によると、移行率は平均で年間10%とされています
もっとも専門医療機関における割合(進展率)が、地域の(専門でない)医療機関における移行率より高いことに注意か必要です
どうしてそのような差が出るのかというと、地域調査で軽度認知障害とされる群は、実はうつ病や脳血管障害など多彩な疾患からなることがあるためです。つまり十分に詳しい検査ができないので、認知症の前駆状態とは別の病気も紛れ込みやすいのです
軽度認知障害の対策方法
軽度認知障害は放置すると、年間で10%、4年後に半数が認知症に移行するといわれています。そのため軽度認知障害の段階で認知機能の低下にいち早く気づき、予防対策を行うことが大変重要となってきます
それでは、どう対策したらいいのでしょうか?
軽度認知障害の対策法としては、まず運動があります。糖尿病などメタボリックシンドロ—ムとアルツハイマー病の関係が注目されています。これらへの対応と同じ原理から、まず運動することが挙げられます
また食生活では、青魚をとり、緑黄色野菜や果物に多いビタミンを摂取することで予防効果があるという報告もあります
食事の改善や栄養のコントロールをしていくことが最優先です。認知症を撃退するには、脳を活性化する栄養素をサプリメントなどでたくさん摂り入れるなど、日々の生活を改善していきましょう