認知症患者においては、中核症状や周辺症状などによって定期的に食事が摂取できなかったり、拒食によって低栄養状態や病的な痩せにおちいったりしやすい反面、活動量の低下や過食による過剰栄養・肥満におちいることもまれではありません
認知症患者自身や家族介護者にとっては食事療法を確実に行うことは容易ではありません
もくじ
認知症患者の食事と栄養
認知症の家族は、日々の生活の中で認知症患者の食事摂取や栄養状態を見極め、それらの障害を引き起こす原因や要因を迅速かつ的確にとらえていくことが大事です
同時に、家族や家族介護者に加え、主治医・管理栄養士・ホームへルパーをはじめとするほかの保健・医療・福祉専門職者との連携のもと、安定した食事摂取や栄養状態の維持・向上と食事や栄養にかかわる健康障害の予防・改善を図り、状況を踏まえて家族介護者やホームヘルパーが的確に対応できるようにします
加えて、認知症患者には、咀嚼・嚥下障害や口腔内のトラブルも少なくはありません。これらの介入は、食事の摂取・栄養の補給にかかわる介入と平行して取り組む必要があります
認知症患者が陥りやすい栄養状態
アンバランスな栄養 | 食事摂取量の過不足 |
偏食・食事摂取量のむら | |
必要な食事療法が守られない | 力口リー制限が守れない |
塩分の摂りすぎ |
家族介護者の適切な対応
- 過剰な食事摂取への対応(声かけ、気づかない場所に食品を保管する、低カロリー食品の利用、小さい茶碗にする、食事形態の変更など)
- 少ない食事摂取への対応(声かけ(定期的な食事摂取のうながし)、誘導、介助、補食、高力ロリー食品の利用、食事形態の変更など)
- 偏食・食事摂取量のむらへの対応(声かけ(定期的な食事摂取のうながし)、誘導、介助、訴えや表情を見ながら全体で栄養バランスを補う、補食など)
- 塩分のとり過ぎへの対応(声かけ、酢や柑橘類の果汁の利用など)
- 孤食にならないようにする
エネルギーの摂取と消費のバランス
「部屋に閉じこもりの状況でー日三度の食事とおやつを食べている」「頻繁に徘徊し続けているにもかかわらず食事はあまり食べない……」
このようなケースで何が生じるかといえば、まず体重の増加や減少です
在宅で生活・療養する認知症患者の場合、エネルギーの摂取と消費のバランスが安定しにくいことが1つの特徴でもあります。しかし、体重の増加や過剰栄養は、心臟・循環機能や膝関節・股関節への負荷を増大させるばかりか、耐糖機能の障害にも発展しかねません
また、体重の減少や低栄養状態は、免疫力の低下による感染症の発生や褥瘡の発生・増悪を招くこともあります
エネルギーを摂取する認知症患者個人の状態、そして、エネルギー供給を図る在宅という場における食事の提供体制は常に一定であるとはかぎりません
家族介護者として、認知症患者の活動の状況、食事内容や摂取状況、体重、血液検査の結果は、必ずチェックしましょう
認知症の食事・栄養摂取のポイント
アルツハイマー型認知症では、食事摂取が普通でも体重減少が起こる場合があるので、身体計測とともに、十分な食事量および栄養バランスに配慮します
脳変性に関与する栄養素として、コリン、レシチン、ドコサへキサエン酸(DHA)、ビタミンC、ビタミンE、チアミン、ビタミンB12、葉酸などがあげられています
アルツハイマー症の食行動の問題
- 記憶力や判断力などの低下により食事摂取が一人でできにくくなる
- 食べられるものと、食べられないものとの判別ができなくなり、食べられないものでも食べててしまう
- 食べ物の認識ができなくなる
- 食べたことを忘れて、食べた直後でも、また食べ物をほしがる
- 食べることに集中できず、食べ物で遊んでしまう
- 食べこぼすなど、周囲を汚しやすく、汚しても気にしなくなる
- 拒食、過食、一気食いなどがみられる
アルツハイマー症の食事方法
アルツハイマー型認知症患者の食事のポイントを紹介します
- できるだけ患者の好みを尊重した味つけ、献立、調理法とする
- 食事の前には排泄をすまさせる
- 嚥下障害のある場合は、飲み込みがしやすい姿勢にする
- 急がせることなく、ゆっくりと食べさせる
- 同じことを何度でも聞いたり話したりしても、ていねいに、おだやかに対応する
- いうことを否定したり説得しようとしまし。たとえば食事をしたのに「まだ食べていない」という場合は、「もう少ししたら食べましょうね」とか、「いま作っていますよ」とか、あるいは少し食べさせるとか、一回の食事量を減らすなどの工夫をする
- 被害妄想により「毒が入っている」などという場合は、本人の目の前で毒見をするとか、犯人を追い払ったから大丈夫であるとか、被害妄想を否定しないで対応する
- 食事中に異常行動をとっても叱ってはいけない
- 家族だけで介護を負担せず、特別養護老人ホームへの入所、ショートステイの利用、デイケア施設の利用、ホームヘルパーや地域ボランティアの支援など、社会資源を上手に活用する
- できるだけ規則正しい生活をさせ、ADL(日常生活動作)の維持に努める
- 食事環境を急激には変化させない