認知症高齢者を癒す5つの療法【薬を使わない非薬物療法】

認知症高齢者の心と体を癒す5つの療法(薬を使わない非薬物療法)をご紹介します

高齢者自身から見える視点を重視し、その人の語りや表現をもとにケアをしていきましょう

認知症高齢者を癒す療法①アロマテラピー

アロマテラピー

アロマテラピーは、植物から抽出した精油(エッセンシャルオイル)を用いて、心と体をすこやかにする自然療法です

ひとつひとつの精油にさまざまなアロマ効果を発揮する芳香成分が含まれています。たとえば、心に働くものとして次のようなものがあります

認知症患者に効果のあるアロマ

神経の高ぶりを鎮め、怒りをやわらげるラベンダー

心をリラックスさせ、イライラや不安を緩和するイランイラン

頭をすっきりさせるペパーミント

気分を明るくし、脳の働きを活性化するレモン

不安や抑うつ、緊張をやわらげるゼラニウム、サンダルウッド、ベルガモット、ローマン力モミール

慢性的な不安や抑うつをやわらげるネロリ

深いリラクゼーション効果があり、孤独感をやわらげるスウィートマジョラム

精油は水で薄めてオイルポットで焚いたり、部屋にスプレーして呼吸といっしょに吸いこんだり、お風呂の湯やマッサージオイルにたらして用います

精油によっては、使い方に注意のいるものや、期待する効能があっても好みの香りでない場合があります。選び方や使い方については、専門店で相談しましょう

香りには、忘れていたなつかしい記憶を呼び覚ます効果があることも知られています。記憶に結びついている香りは人によって違うので、いろいろ試してみましょう

さっぱりした香り、花の香り、甘い香りなど、その日の雰囲気に合ったエッセンシャルオイルを選び、アロマポットで焚きましょう香りによる心地よい刺激は心を落ち着かせ、明るくする効果があるようで、なごやかなよい表情になります

認知症高齢者を癒す療法②音楽療法

音楽療法

音楽は心や体に働きかけ、いきいきとしたバランスのよい状態をもたらす力をもっています。この力を臨床の場で生かそうとして、ドイツやアメリカで始まったのが音楽療法です

さまざまな人が対象になりますが、認知症高齢者の心をやわらげ、活力を取り戻すのにも効果的なため、現在、日本でも病院や高齢者施設などで広く行われています

手法は音楽療法土によって異なりますが’、多くは、認知症高齢者にとってなつかしい歌やメロディを選んで、全員で合唱や合奏をしたり、音楽に合わせて体を動かしたりすることで、楽しかったころ、いきいきと輝いていたころの思い出を引き出すことを基本としています

歌詞やメロディを間違えずにうたえた、ハーモニカが吹けた、といった達成感が、自信や自尊心を取り戻し、楽しい気分が抑うつや不安をやわらげるのに役立ちます

広い意味では、家族が音楽療法土の役目をすることができます。病院や施設と違って、本人が好きなジャンルの音楽を目いっぱい聴いたり、うたったり、演奏できるという利点もあります

ピアノに合わせて季節の歌やなつかしい歌をうたったり、楽器を奏でたり、歌に合わせて体操をしたりします合間には、その日の歌に合った話をはさみ、最後におだやかなメロディの曲をうたって高揚した気分を落ち着かせて終了します

歌声がだんだん大きくなり、ふだんは話さない方が歌いはじめる姿も見受けられます。終わるころには、明るくいきいきしたよい表情になるでしょう

認知症高齢者を癒す療法③回想法

回想法

回想法は、主に高齢者を対象に、アメリ力の精神科医によって始められた心理療法です。日本では、認知症高齢者の脳機能のリハビリテーションや心の安定をはかるために、多くの病院や施設で行われています

臨床心理士や精神科医、訓練を受けたセラピストと1対1で行う場合と、8人程度の小グループで行う場合があります

人生のなかでいちばんいきいきと輝いていたころの言己憶をよみがえらせるように話しかけ、楽しくおしゃべりしてもらいます。本人がしゃべる内容については意見をはさまず「そうなんだ」「すごいですね」といった相づちを打ちながら傾聴するのが基本です

人生をふり返り、輝いている自分を確認すること、そして、それを他の人に認めてもらえたという実感は、高齢者の自信と自尊心を取り戻すのにおおいに役立ちます

その結果、不安や孤独感、抑うつがやわらぎ、心はおだやかさを取り戻していきます。家族が昔話に耳を傾けるだけでも、回想法の効果は期待できます。家族にとっても、輝いている時代の姿を認識することで、本人の存在を見直すいい機会になります

過去を共有し、認め合うことで、心の安定を取り戻していく効果が目に見える形で現れてきます。  たとえば、他の人の話に相づちを打つ、挨拶をかわすといった他者と交流する姿が見られたり、自分の人生を肯定的にとらえ、これからについても希望を見出すような発言をする方が出てきます

認知症高齢者を癒す療法④リアリティ・オリエンテーション

リアリティ・オリエンテーション

リアリティ・オリエンテーション(RO)は1950年代、米国の精神科医によって開発されました。日本語で「現実見当識訓練」といいます

認知的な刺激を与えるグループワークで、「リアリティ・オリエンテーションセッション」は、30分から1時間程度、数人のグループで実施されます

特に認知症の患者さんに認知的な刺激を与える構造化された介入技法として発展し、時代とともにより洗練された方法が取り入れられてきました

リアリティ・オリエンテーションの方法の中で「24時間リアリティ・オリエンテーション」は、施設環境の中で、常にスタッフが患者に現在の見識に関わるような情報を提供し患者とのコミュニケーションを豊かにするケア体制を示します

認知機能に対する効果は、セッション終了後は持続しないものと考えられますが、長期的なセツション参加は認知機能の低下や施設入所を遅らせるとの報告もあります

認知症高齢者を癒す療法⑤化粧セラピー

化粧セラピー

ここ最近、認知症高齢女性の脳と心をいきいきさせる試みとして、化粧セラピーを取り入れる病院や施設がふえてきましました

「きれいですね」「すてき」「好きな色は?」と声かけをしながら化粧していくと、顔がこわばり、人とのコミュニケーションを嫌っていた人の表情がなごみ、しゃべり始めるようになった、といった効果が報告されています

化粧をしてきれいになることは、気分を幸せにし、自信を取り戻すきっかけになりますし、あたたかい気持ちで人とかかわろうとする心の余裕を生むことにもなります

ポイントは、化粧をするときに必ず声かけと手のひらや指でスキンシップを行うこと。楽しく、気持ちよい感覚を味わえるようにすることが大切です

たとえば、「お肌をやわらかくしましょうね。10数えましょう」と声をかけながら、熱めの濡れタオルで顔を蒸したり、化粧水や乳液を手指や手のひらでマッサージするようにつけるとよいでしょう

スキンケアで心がほぐれると、自然と表情がやわらぎ、楽しそうにおしゃベりする姿が見られるようになったりします

ファンデーションはクリームタイフのものを指でのばします。パウダーをはたき、眉を描き、アイシャドー、ほお紅、口紅で装いましょう。色選びをいっしょにすると、それも楽しい刺激になります

「きれいですね」「似合いますね」などと声かけをすると、少し恥ずかしそう、けれどうれしそうといった表情を浮かべ、いつもよりおしゃべりが盛り上がるでしょう。