家族の介護者による認知症高齢者への声かけの方法と注意点

「声かけ」とは、認知症高齢者と家族の介護者の受信と伝達を司るコミュニケーションとは異質なもので、「言葉」というツール(道具)によって認知症高齢者の日常生活行動や、よりよい人生を生み出していくものです

認知症高齢者が思い起こしたり、認識できるようにするための手法の1つに「声かけ」が存在します

介護者が行う「声かけ」の方法

「声かけ」の方法

家族の介護者や介護専門職者らが用いる「声かけ」という言葉には、多様な見解がありそうですが、ー言でまとめるならば、「対象が有するさまざまなレベルの健康に関連する潜在的能力を引き出して、その能力を可能な限り機能させ、ー個人の生活活動の遂行を実現させる」ことを目指すものであり、認知症高齢者の主体的な言動や行動を支持するものです

それでは、認知症高齢者に対する「声かけ」はどのように行えばよいのでしょうか

言葉そのものが思い出せなかったり、認識できなかったりする認知症高齢者にとっては「言葉」というツールそのものが必ずしも有用であるとは限りません

しかしながら言葉は、家族の介護者の認知症高齢者に対する思いと、用い方次第で十分に機能させることができます

介護者が認知症高齢者に対して飲水をうながす場面を取りあげてみましょう

飲水をうながす場面の例

「水分を摂らない」「食事摂取にむら」がある認知症高齢者。介護者は、「脱水の危険性が高い」と判断し、訪問時には「水分摂取をうながたと」を実行する。具体的には、「お茶を飲んでください」と声をかけたりすることです

しかし、認知症高他者から「お茶を飲んでください」と言われ、応じられる、もしくはその理由を確認して納得すれば応じるというのは、認知機能が障害されていない高齢者であれば、決して困難なことではありません

しかし、認知症高齢者の場合「お茶を飲んでください」という声かけでは、必ずしも「飲む」という行動にまでは至りません。お茶という飲料水をなぜ十分に摂る必要があるかについて、再三説明したとしても記憶の障害を有する認知症高齢者にとっては認識しがたく、「脱水にならないようにするために、お茶を飲んでください」と、その場で伝えて理由がわかったとしても「飲む」という行動にまでは至らないことがあります

声かけは自尊心の尊重と快い感情を抱かせる

そのような状況に対して、介護者は、お茶が入った湯飲みを示し、お茶が入ったという事実と「温かいうちに召し上がってみてください」という声かけとともに、その飲みを認知症高齢者の手元に近づける。その結果、認知症高齢者に変化が見られることがあります

しかもその声かけには、家族の介護者の穏やかな表情としぐさ、さらには物静かな言いまわしが兼ね備えられています

認知症高齢者にとって、家族の介護者の声かけは自尊心の尊重と快い感情を抱かせるものであり、家族の介護者が認知症高齢者の手に触れて直接介助しなくても、認知症高齢者自らが湯飲みに手を伸ばし、お茶を口にするということを可能にします

長い年月の中で認知症高齢者が身に付けた生活習慣や文化は認知症に罹患したことで直ちに失われるわけではありません。家族の介護者が行う声かけは、長年培われた人としての尊厳や生活信条、価値観を重んじた声かけなのです

認知症高齢者に対する声かけの注意点

声かけの注意点

認知症高齢者に対する「声かけ」を行うには、注意すべき事柄があります

タイミングをはかる

まず、認知症高齢者の表情や動作を踏まえ、タイミングをはかるということです。認知症認知症高齢者に届く「声かけ」(有効な声かけ)を行うには、タイミングを慎重にとらえる必要があります。認知症高齢者の状況を無視して、むやみやたらに声をかけるのでは、かえって認知症高齢者を混乱させることにもなりかねません

聴覚の障害を見逃さない

加えて、聴覚の障害を見逃さないことです。言うまでもなく「声かけ」は「音声」に頼るところが大きいです。老人性難聴をはじめとする聴覚の障害が生じやすい高齢者にとって、音を確実に受信できる環境は重要な意味をもちます

介護者の「声かけ」が有効に機能するためには、認知症高齢者が音を確実にとらえることができるように、介護者自身が身をおく位置を工夫することや、テレビや車の走行音などに対する環境の調整を図っていきましょう

ストレスを生み出さない

さらに、「声かけ」によるストレスを生み出さないことです。期待する行動の変化が認められない場合、声かけを反復することがあります

家族の介護者の焦りの感情は高ぶり、声のトーンは高くなりやすいです。認知症高齢者はこの事態を敏感に感じとり、かかわりを拒んだり、混乱に陥ったりすることがあります。認知症高齢者の「うるさい!!」「あっちに行って!!」などの発言は、時に声かけが招いた心理的抑圧によるものであったりします

必要時には間をおいたり、距離をとる

そして、必要時には間をおいたり、距離をとることです

声かけを繰り返しても期待する行動の変化が見られない場合は、時間的な「間」をおいたり、適度な「距離」をおくことが必要です。それは、認知症高齢者のストレスを生み出さない手立てであり、認知症高齢者ならびに家族の介護者にとってみれば、場面展開の契機ともなりうります

演示や提示をする

また、必要に応じて演示や提示をすることです。声かけに加えて、家族の介護者が動作で示したり、実物を示すことは、聴覚に加えて、視覚からも同時に働きかけることであり相乗効果が期待できます

そして、「演示・提示」において、大切なことは、認知症高齢者が無理なくとらえることができる位置に家族の介護者が身をおくことです。「真正面」「横にならぶ」など最適な位置を考えて臨むことが重要な意味をもちます

認知症高齢者に対する「声かけ」の注意点まとめ

  • 表情や動作を踏まえ、タイミングを図る
  • 聴覚の障害を見逃さない
  • 「声かけ」によるストレスを生み出さない
  • 必要時には間をおいだり、距離をとる
  • 必要に応じて演示や提示をする
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