広辞苑によれば、「見守り」とは、「①見て番をする。事か起こらないように注意して見る。②じっと見つめる。熟視する」とあります
この「見守り」という言葉は、従来、小児看護学や精神看護学ではケア実践用語の1つとして用いられてはいましたが、認知症の看護・介護においてはほとんど認知されていませんでした
もくじ
認知症の「見守り」
近年においては、高齢社会の進展に伴って要介護高齢者の存在に関心が向けられ、ついで、認知症高齢者に対するケアが試行錯誤的に取り組まれていく中で、高齢者ケアの担い手である訪問看護師や介護専門職者らのケア実践用語として「見守り」が着実に浸透しつつあります
訪問看護師や介護専門職者らが用いている「見守り」という言葉は、先の広辞苑に見る内容とは異なります。つまり、「見張り」や「監視」といったことを意味するものではありません
おそらく、このような視点に立った「見守り」であるならば、認知症高齢者の身体的、精神・心理的、社会的な健康や活動は維持・向上できず、生活や人生の質を低下させることにもなりかねません
訪問看護師や介護専門職者らが用いる「見守り」という言葉にはさまざまな見解がありそうですが、あえてー言でまとめるならば、「対象が有するさまざまなレベルの健康に関連する潜在的能力を引き出して、その能力を可能な限り機能させ、ー個人の生活活動の遂行を実現させるものである」というものです
つまり、看護の対象が意識しているか、していないかにかかわらず、その秘められた能力を機能させるベく導き、その人の日常生活や暮らしを生み出していく手法の1つが「見守り」なのです
認知症高齢者へ介護者が行う「見守り」
認知症高齢者に対して家族の介護者が行う「見守り」は、「認知症」という病とともに生きる中で克服することが容易でない不自由な生活と表裏一体の状況であっても、可能な限り自分自身の力で自分を守り、生活を営み続けるようにするものです
家族の介護者は認知症高齢者が存する誰もがとらえられる残存能力や機能と、その存在すら不明瞭な秘められた残存能力や機能の双方に対して働きかけていきます
認知症患者を見守る方法
それでは、認知症高齢者に対する「見守り」はどのように行えばよいのでしょうか
家族の介護者が行う「見守り」は、複数の要因から成り立っています
まず、認知症高齢者のありのままの言動や行動をとらえた介護者は、その状況に対する介入の必要性を思考します。そして、介入が必要であると判断したのちには、介入することを意思、决定し、さらには手法としての「見守り」を設定・決定します
また、決定された「見守り」という手法は、常に単独で存在するものではありません。必要に応じて、言葉や動作・表情を活用し、時には双方を組み合わせて、その目的の達成に臨みます
①時間を無駄にしない
まず、時間を無駄にしないことです。見守りの手法を設定し決定したからといって初志貫徹し、時間を無視した対応では意味がありません
たとえば、自力での食事の完食を目指して見守り続け、1回の食事に1〜2時間を要する状況であれば、認知症高齢者はそのほかの必要な行動が行えなくなるばかりか、家族の生活の障害や家族介護者の負担を大きくすることにもつながりかねません
認知症高齢者を焦らせることなく、その時々の認知症高齢者の状況を踏まえながら、見守りの時間が意義あるものとなるように臨むことが大切です
②認知症高齢者の意向を可能な限り汲み取る
また、認知症高齢者の意向を可能な限り汲み取るということです。認知症局齢者にとって自分の意思や意向が尊重された「見守り」であるならば、認知症高齢者自身が心穏やかでいられる上に、生活活動の遂行も円滑に行えることが十分に期待できます
介護者の一方的なとらえ方や考えによる見守りにならないようにすることが大切です
③必要に応じて環境を工夫する
さらに、必要に応じて環境を工夫することです。認知症高齢者の居室からトイレまでの移動を例にすれば、介護者に見守られているだけではその行為が行えないということも少なくありません。そこに認知症高齢者の主体的な行動を支持する目印や矢印が掲示されていたり、照明が調整されているならば、自力でのトイレまでの移動は行いやすくなります
④介護者自身の気持ちの安定を図る
そして、介護者自身の気持ちの安定を図ることです
ー日の訪問スケジュールを組み立てる際には、時間的余裕を十分に考慮するとともに、介護支援専門員が立案する介護サービス、計画(ケアプラン)における訪問時間の設定は、「見守り」の意義と目的を明確に伝え、介護者が主体的に調整を図る取り組みが必要となります
認知症高齢者に対する「見守り」のポイント
- 時間を無駄にしない
- 認知症高齡者の意向を可能な限り汲み取る
- 必要に応じて環境を工夫する
- 介護者自身の気持ちの安定を図る