認知症にかかると現れるさまざまな症状は、中核症状と周辺症状の二つに分けることが出来ます
ここではその中核症状と周辺症状について一つ一つ、詳しく解説していきます
認知症の中核症状と周辺症状とは
認知症の症状は、中核症状と周辺症状のふたつに大別されます
中核症状とは、脳の器質的な障害によって現れる症状で、認知症患者には必ずいずれかの症状がみられます。ただし、軽度で目立たない場合や周辺症状の前景化により気づきにくいこともあります
一方、周辺症状とは、中核症状に付随して起こる二次的な症状をさします。周辺症状は中核症状と違って、認知症患者それぞれの環境によって現れる症状のことです
中核症状と違い、周辺症状は必ずしも出現するとは限りません。しかし症状によっては、患者のみならず介護者にとっても、強いストレスとなります
中核症状(認知症で必ず現れる症状)
「中核症状」は病気などが原因で脳の神経細胞が死減することによって起こる知的機能障害で、認知症のだれにも必ず現れる症状です
記憶障害、見当識障害、感情障害、判断力の低下、人格変化、失認・失行・失語、計算力障害の7つに分類されます
なかでももっともはやい時期から現れるのが、物忘れ(記憶障害)です。認知症の物忘れは、新しい記憶から障害され、必ずひどくなっていくのが特徴で、次第に古い記憶まで冒されるようになります
また、あることに関する記憶がすっぽり抜けてしまうため、忘れたこと自体を忘れてしまいます。そのため、ひどくなるにしたがい、安全でスムーズな日常生活を送るのがむずかしくなり、人とのコミュニケスションもうまくいかなくなります
一方、加齢に伴う心配のいらない物忘れは、人の名前が思い出せない、なにをしようとしたか忘れた、といったことがあっても、なにかの拍子に思い出したり、ヒントを与えると記憶がよみがえってきます。忘れるのはあることの一部だけなので、生活や人とのコミュニケーションに支障をきたすことはありません
物忘れがひどくなるにつれ、時間や場所、見知った人がだれだかがわからなくなる、簡単な計算ができない、感情が不安定になる、筋道を立てて考えられない、物を正しく認識できない、手順どおりに動作ができない、その人らしさが失われる、といった症状が加わっていきます
認知症の中核症状①記憶障害
今さっきのことを覚えていない症状です。物忘れがひどくなってきます。認知症の物忘れは、新しい記憶の障害から始まるのが特徴です。今言ったばかりのことを忘れて何度も同じ話を繰り返したり、食事をした直後に「食べていない」と言ったりします。
忘れたこと自体を忘れていて、ヒントを与えても思い出すことはできません。言い訳やつくり話(作話)をして、忘れたことを取り繕うこともあります
記憶障害が進むと、家族の名前や年齢、花や鉛筆、茶わんなど簡単な言葉も言えなくなってきます
やがて、新しい記憶だけでなく、古い記憶も障害されるようになります。古い記憶のうち、以前になにかをしたという事実の記憶は障害されることが多く、楽器の演奏や料理の作り方をなどは保たれる傾向にあります
認知症の中核症状②感情障害
感情が不安定でコントロールがきかなくなります。感情が不安定になり、ささいなことで怒ったり、泣きわめいたり、場にそぐわないほど大げさに感動して涙を流したりする一方、ひどく落ちこんでうつ状態になったり、言葉数が少なくなったりします
環境の変化や周囲の対応に過敏に反応するため、興奮して夜眠らなくなったり、人を疑ったり、被害妄想や嫉妬妄想を起こしやすくなります。気分に左右され、根気がなくなるので、物事を長くつづけられなくなるといったことも起こります
認知症の中核症状③計算力障害
簡単な足し算、引き算もできない症状です。認知症が進むと、簡単な足し算や引き算ができなくなり、買物に行くといくら出していいかわからなくていつもお札で払う、おつりの計算ができないといった症状が見られるようになります
もともと数字を扱うことが多い人の場合は、他の知的機能がかなり低下した段階でも、計算力は比較的残っていることもあります
認知症の中核症状④見当識障害
「いつ、どこ、だれ」がわからなくなる症状です。今日が何年何月何日なのか、自分がいるのはどこか、家族など自分のまわりにいる人がだれか、自分とどんな関係なのかといったことがわからなくなります
見当識障害が進むと、季節がわからなくなって夏にセーターを着こんだり、家族に向かって「どなたですか?」とたずねたり、自宅のトイレの場所を探したり、道に迷って自宅に帰れなくなったりします
認知症の中核症状⑤判断力低下
的確な状況判断ができない、筋道を立てて考えられない症状です。的確な状況判断をしたり、変化に対応するのがむずかしくなるため、赤信号なのに道を渡ってしまいなど場違いな行動や、自分の考えを頑固に主張する、といったことが見られるようになります
また、筋道を立てて考えたり、2つ以上のことを同時に処理できなくなり、献立を考える、みそ汁をつくりながらおかずをつくる、といったことができなくなります。テレビや洗濯機の操作や、銀行のATMや電車が使えないといったことも見られます。
認知症の中核症状⑥失認・失効・失語
物を正しく認識できない、手順どおりに動作できないという症状です。スプーンや鉛筆がなんなのかわからなくなったり、時計の文字盤の数字や針の位置が正しく描けなくなったり、よく知っていたはずの物や配置などが、正しく認識できなくなってきます(失認)
目的に応じた一連の動作を順序良く組み立てて実行できなくなる(失行)ため、上着の上に下着を着たりします
失語は、「あれ」や「それ」という代名詞を使うことが多くなり、なかなか言いたい言葉が出てこないことから始まります。やがて、意味のある言葉を話そうとしても声が出ない、言葉につまってしまう状態になっていきます
認知症の中核症状⑦人格変化
その人らしさが失われる症状です。やさしく思いやりがあり、明るかった人が、なにかにつけてイライラ怒りっぽく、攻撃的になったり、自己中心的で非常識な発言や行動をするようになったりします
おしゃれだったのに身だしなみにかまわなくなったり、言葉づかいが乱暴になって驚かされることもあります。
周辺症状(本人を取り替く環境によって現れる)
「周辺症状」は本人を取り替く環境や人とのかかわり方に対する反応として現れます
認知症高齢者の家族の多くを悩ませるのが、「ちょっと目を離すとどこかへ行ってしまう」「1日中ボーッとしている」「話しかけてもむっつりして答えない」「『財布を盗まれた』と騒ぐ」「自宅にいるのに『ウチに帰る』と言ってきかない」「夜中に起きだして騒ぐ」といった「周辺症状」です
「周辺症状」は、意欲減退・白発性低下、睡眠障害、不安・焦燥、発語減少、うつ状態などの「活動低下症状」と、幻覚・妄想、徘徊、帰宅願望、夜間せん妄、攻撃的言動・暴力行為、性的逸脱行為などの「活動過多症状」の2つに大きく分かれますが、どちらも本人を取り巻く環境や人のかかわり方に対する反応として現れる症状です
もともとの性格とも大きく関係していて、神経質、AI樹酣、0。自尊心が強い、わがまま、疑り深いといった性格の人が認知症になると、周辺症状を起こしやすい傾向があります
このように、周辺症状が起きる原因にはいろいろな要素がからみあっているため、現れ方や程度は人によってさまざまです周辺症状は、環境や家族など周囲の人のかかわり方が引き金になって起こると考えられます
逆にいえば、原因となっている環境やかかわり方を変えれば、症状をやわらげることが期待できるわけです。他の人にとってはささいなことでも、本人にとっては、大事だったり、嫌悪するものであることがあります。今、目の前にいる本人の姿だけに目が行きがちですが、それまでの人生全般に思いをめぐらし、本人の目線でなにが問題なのかをさぐることが大切です
認知症の周辺症状①不安焦燥
認知症高齢者には、程度の差こそありますが、病気であるという自覚があります
そのため、「なにかおかしい」「もしかしたら……」「まさか」「そんなはずはない」「なぜ、今までできたことができないのだろう」といった不安や焦燥に、苛まれるようになります
認知症の周辺症状②睡眠障害
睡眠のリズムが乱れて、昼夜が逆転するようになる症状です
昼間はウトウト眠り、夜になるとパッチリ目を覚まして、歩きまわったり、大声を出して騒いだりします。とくに深夜に興奮することが多く、睡眠不足になるため、脳の働きが支障をきたし、夜間せん妄を起こすこともあります
認知症の周辺症状③意欲減退・自発性低下
自分からなにかをしようとしなくなります。好きだったことや楽しみにしていたことにさえ関心をもたなくなり、1日中、見るとはなしにテレビの前でポーッとしていたり、読んでいるわけでもないのに新聞を見ていたり、という姿が見られたりします
認知症の周辺症状④発語減少
口数が少なくなり、人に話しかけようとしなくなる症状です
会話の内容も乏しくなり、いつも同じことを繰り返し言いつづけたりします。なにを聞いてもニコニコしているだけだったり、むっつりして答えないといったこともよく見られます
認知症の周辺症状⑤うつ状態
無表情や憂うつな表情でふさぎこむ、部屋に引きこもる、人と会うのを嫌がる、何事にも関心を示さない、無気力、「もうだめだ」「死にたい」といった絶望を口にする、といった抑うつ状態に陥ることがあります
認知症の周辺症状⑥夜間せん妄
夜間せん妄は、昼間は落ち着いているのに、夜になると騒いで興奮状態になる症状です
いないはずの人が見える幻視を伴うことが多く、「だれかが襲おうとしている」「部屋中に知らない子どもがいる」とありもしないことをロ走ったりします
認知症の周辺症状⑦攻撃的言動・暴力行為
認知症が進むと、言葉で論理的に表現することがむずかしくなります
自分がしている行動を制限されたり、注意されたり、なにかをするように指示されると、不満や反発を、攻撃的言動や暴力行為として周囲にぶつけることがあります
認知症の周辺症状⑧徘徊
徘徊とは、ひとりで出ていって、あちこち歩きまわり、帰れなくなる症状です
どこかに行こうとして歩いているうちに行き先を忘れたり、なじみのない場所で不安に駆られて帰宅しようとしたり、過去と現在を混同して幼いころに住んでいた家に帰ろうとしたりして、道に迷ってしまいます
認知症の周辺症状⑨幻覚・妄想
幻覚を訴えたり、疑り深くなり、妄想を抱くようになる症状が出ることがあります。
財布や大事なものを盗まれたという备られ妄想」や、連れ合いが浮気をしているという「嫉妬妄想」、みなが自分の悪口を言っている、いじめるといった「被害妄想」などがよく見られます
認知症の周辺症状⑩帰宅願望
自分の家にいるのに、「ウチに帰る」と言って荷物をまとめて出ていこうとしたり、「ウチにつれて帰って」としつこく要求することがあります
とくに夕方から夜にかけて思いが強くなる傾向があり、夕方になるとソワソワ落ち着かなくなります
認知症の周辺症状⑪性的逸脱行為
自制心や善悪を判断する能力が低下するため、相手かまわず体に触ったり、抱きついたり、卑猥な言葉をかけたり、ときには裸になってしまったり、性行為を強要するなど、性的逸脱行為をする症状が出ることがあります。