【認知症初期】家族の対応方法10

認知症初期の家族の対応方法

ここでは、認知症初期の方への家族の対応方法をまとめています

認知症の初期にありがちな言動に対する対応を、10個に分けて具体的にあげています。それぞれの場面で、家族がしてはいけないことも覚えておきましょう

認知症初期の家族の対応方法

認知症であることを信じたくない

認知症初期のころは、本人はもちろん、家族も、とまどい、大きなショックを受ける時期です

そのため、認知症であることを信じたくないという思いが働いて、物忘れはよくなるんだからとドリルをさせたり、「気のせい」「頑張ればだいじょうぶ」と励ましたりしがちです

間違ったり、できないことを指摘して叱ったり、あやまらせたりといったこともあるでしょう。しかし、どう期待されようと指摘されようと、本人にはどうしようもないことなので、こうした接し方をされると、不安のレベルはますます高まり、認知症を悪化させることにつながります

認知症初期の対応法①不安そうな言動

不安そうな言動

不安そうにたたずんでいたり、なにかを捜しまわったりしている姿をよく見かけるようになりました。認知症の中核症状である物忘れが進むにつれて、自分では「やったはず」のことがでぎていなかったり、「しないはず」のことをやっていたり、「ここにしまったはず」のものがなかったり、といったことが増えてきます

自分が実際にした行動に関する記憶が残っていないのですから、本人にとってこんなに不安で愕然とすることはありません。

対応方法

「どうしたの?」と静かに問いかけ、本人がとまどいや不安の理由を口にするときは、それに耳を傾け、いっしょにやり直したり、捜したりしましょう。なにも言いたがらないときは、無理に聞き出そうとしないで、見守ってください

してはいけないこと

物忘れしたことや失敗を指摘しないようにしましょう。本人は自分の言動について、「なにか変だ」という自覚はある程度あるものです。責められるととまどいや不安を深め、責めた相手に怒りをぶつけることで自分と折り合いをつけようとするようになりがちです

認知症初期の対応法②怒りっぽくなる

怒りっぽくなる

認知症が進行するにつれて、それまで当たり前にできたことができなくなったり、間違えたり、失敗したりすることがふえてきます。しかし、本人には理由がわかりません

そのため、現実の「これまでとは違う自分」に納得できず、心は漠然とした不安や恐怖に押しつぶされそうになっています。認知症初期のころは、その感情を怒りの形で表すことが多いため、もともと温厚だった人でも怒りっぽくなる傾向があります

対応方法

一見、身近な人に怒りをぶつけているように見えますが、本当の怒りの対象は、実は「これまでとは違う自分」になってしまったことそれ自体です

怒りに対抗して本気で怒ったり、理詰めで説得しても、理解できる状態ではありません。とはいえ、認知症初期のころの怒りはまだそんなに激しいものではないので、吐き出してしまえば、あとは平静に戻るものです。受けとめるほうは腹が立っし、理不尽な思いもするでしょうが、少しこらえて小さなやり合いでとどめることが大切です

してはいけないこと

「もういい!」「うるさい」といった言葉で話を打ち切らせたり、聞く耳をもたない、本気で取り合っていないという態度をとったり、逃げ出したりしないことが大切です

怒りが心のなかでくすぶって、妄想を抱いたり、うつ状態をつくりだす危険があります

認知症初期の対応法③間違いを認めない

間違いを認めない

間違いや失敗をしたとき、その事実は認識できて「しまった」と思うものの、本人には納得できる原因が思い当たらず、心のなかはパニック状態になっていることがあります

それを悟られまい、その場をなんとか取り繕おう、という必死の思いが、言い訳の形で現れます。しかし、とっさに考えるため、つじつまの合わない内容になりがちです

対応方法

言い訳を始めたら、途中でさえぎらずに、まず耳を傾けましょう。内容に反論するときは、「でもね……」とやんわりした言い方を心がけてください

してはいけないこと

間違いや失敗そのもの、言い訳の内容や、つじつまの合わないことを、強く責めてはいけません。追い詰められると、ますますパニック状態になり、怒りを誘い起こすようになってしまいます

認知症初期の対応法④間違いや失敗を人のせいにする

間違いや失敗を人のせいにする

認知症初期のころには、間違いや失敗を指摘されると、その事実はまだ認識できます

しかし、「自分がそんな間違いや失敗をするはずがない」「ありえない」という思いが強いため、自分が原因をつくったことを認めようとはしないものです。では、「だれが?」となったとき、周囲の人のせいだと考えることが、本人としてはいちばん納得いく結論になるわけです

対応方法

間違いや失敗を人のせいにしたら、「おじいちゃんが、そこに置いたんだと思うんだけど」といったやさしい言い方で聞いてみましょう。それでも違うと言うときには、「そうかしらねえ……」という肯定とも否定とも受け取れるような受け答えにとどめましょう

してはいけないこと

とがめるような口調で責任を追及しないようにしましょう。本人にはまったく思い当たる節がないので、不当な仕打ちを受けたという’負の思いがふくらみ、落ちこんだり、逆に怒ったりするようになってしまうことがあります

認知症初期の対応法⑤話が止まらない

話が止まらない

会話は、かなりのスピードで状況判断しながら、集中力を発揮して展開しないとなりたたないコミュニケーション手段です。認知症になると、判断力が鈍り、集中力も切れやすくなってくるので、会話の途中で話題についていけなくなることがよくあります

そうなると、つまらなくなってしまい、頭のなかに自分の得意なことや興味あることばかりが浮かぶようになります。それを饒舌にしゃべることで、本人は楽しくなり、自分が会話の中心にいる気がして、いい気分になれるわけです

対応方法

いわゆるおしゃべりをしているときも、大切な用件を話し合っているときも、話が止まらないようなことが起こったら、話題を無理に元に戻すことはしないで、相づちを打ちながら、まずは聞き役になってあげましょう。本人の気持ちを満足させることが大切です

また、話が止まらない徴候が見られたら、話し合いや相談、判断を求めることがむずかしいことを意味しています。話をするときは、それを頭におくことが大事です

してはいけないこと

「話題がズレてるじゃない!」「それは違うでしょ」といった強い口調で、話をさえぎってはいけません。本人は’いい話を聞かせているつもりなのに、話題が理解できていない、と指摘されると、自尊心を傷つけられた気分になり、怒ったり、落ちこんだりしてしまいます

認知症初期の対応法⑥人を不快にする言動

人を不快にする言動

本人に面と向かって悪口を言ったり、病人の見舞いに行って「死んじゃうんだ」と不適切な言葉をロにしたりするので、ドキッとさせられます

認知症になると、そのとき頭に浮かんだことや感情を、ストレートに口にしてしまう傾向があります。的確な状況判断ができなくなっている現れです。自分が言ったことで相手が傷つくかもしれない、人間関係がこわれるかもしれない、といったことまで思いが及ばなくなっているため、本人はいたって無邪気なことが多いものです

対応方法

面と向かって悪口を言われると、腹が立ち傷つきますし、人格が変わってしまったのかと悲しくもなるでしょう

受けとめがたい現実ですが、認知症という病気が言わせていることなのだと客観的に認識し、冷静に受けとめるよう努めましょう。第三者に不適切なことを言ってしまった場合は、話題を別の方向にもっていってその場をおさめ、あとで家族が相手にきちんとおわびをしましょう

認知症のために口にしたこととはいえ、相手を不快にしたり傷つけたことに変わりはないので、誠意をこめておわびすることが大切です

してはいけないこと

言われた悪口に強く言い返したり、不適切な言葉を言ってしまった相手に直接あやまらせたりしないようにしましょう

本人には困ったことをしたという自覚はないので、たしなめたり、注意をしてもから振りになってしまいます。むしろ、不当に責められたという思いだけが残ってしまいます

認知症初期の対応法⑦メモだらけになる

メモだらけになる

ささいなことでもメモするようになり、内容がよぐわからないメモがあちこちに置いてあったり、貼ってあったりするようになりました

認知症初期に物忘れがひどくなっているという自覚があって、失敗しないようにしよう、他の人に悟られないようにしよう、という思いに駆られてする行動です

認知症初期は「もしかしたら……」という不安が心のなかでふくらみ、「でも、メモをすればだいじょうぶ!」と、その不安を拭い去ろうと葛藤している時期といえます

対応方法

物忘れがひどくなった自覚があり、それをまだ自力でカバーできる段階です

家中メモだらけでも、気づかないふりをして、本人の気のすむようにさせておきましょう。メモすることで失敗が防げると、ホッとして落ち着くものです。

してはいけないこと

「メモしないと覚えられないの?」「同じメモをそこらじゅうに置いてどうするの!」と、物忘れがひどくなったことを指摘する言葉をかけないようにしましょう

物忘れの自覚があって、なんとかしようと策を尽くしているのにそれがダメだと言われると、追いつめられた気持ちになって、おろおろしたり、パニックをきたすことがあります

認知症初期の対応法⑧落ち込み疲れている様子

落ち込み疲れている様子

認知症初期のころは、「もしかしたら?」「なにかおかしい」という不安ととまどいがふくらむと同時に、他の人に自分の変化を悟られまいと、懸命に命り繕おうとする時期です

そのため、本人はほころびが出ないように、いつも緊張して過ごしており、精神的にも身体的にも疲れきってしまうことがよくあります

対応方法

本人は精神的にも身体的にも余裕がない状態なので’あまり刺激せずに、休養できるようにもっていくことが大切です。「疲れているみたいたかb横になったら」「おいしいお茶が入ったからどうぞ」など、自然に声かけをして、休めるようにしてあげましょう

してはいけないこと

「どうしたの?」「どこか悪いの?」といった原因を尋ねるような言葉かけはしないでください

疲れきった原因は、不安やとまどいを抱えている状態を他の人に悟られないように振るまっていることですから、こうした問いかけはタブーです。ますます緊張と疲労を高めてしまう恐れがあります

認知症初期の対応法⑨ニュースに関心がなくなった

ニュースに関心がなくなった

認知症になると、外界に対する興味は次第に失われ、自分を中心とした手の届く範囲の世界にだけ目が向くようになってきます

これは、もてるエネルギーのほとんどを、日常生活を快適に過ごすための思考や活動に配分することで、脳の機能がうまく働かなくなってきた分を補おうとしている現れです。一種の防衛反応といっていいでしょう

対応方法

認知症でなくても、年齢を重ねると、心身ともにもてるエネルギーは減少してきます。認知症になればいっそうのことです。

ニュースに関心がなくなった気配が見られたら、その心の動きを察し、話題をニュースや社会的出来事に無理にふらないようにしましょう

してはいけないこと

社会的なことに興味や関心をもたないことを、バカにしたり、責めたりしないようにしましょう

本人にしてみれば、無意識のうちに自然にそうなってしまったため、他の人から指摘されてはじめて気がつくことが多いのです。そうすると、「どうしてこんなことに」とうろたえたり、うろたえを隠すために怒ったりするようになりがちです

認知症初期の対応法⑩注意や指摘に過剰に怒る

注意や指摘に過剰に怒る

ちょっと失敗を注意したり、間違いを指摘すると、涙ぐんだり、怒ったりして、「私だって一生懸命やっているのに……」と訴えます。認知症初期は、「なにかおかしい」という不安に駆られながら、失敗しないように、間違いをおかさないように、懸命に行動している時期です

懸命にやっているのにうまくできない現状を他の人に指摘されると、「やっぱりおかしいんだ」と情けなくなったり、落ちこむ気持ちと、「これ以上どうしろというんだ!」という怒りの気持ちが湧き起こり、身の置き所のない思いに駆られるようになります。

対応方法

まず、本人の気持ちが落ち着くまで、訴えに静かに耳を傾けることが大切です

そのうえで、失敗しないようにできる簡単な工夫があったら、「こうしてみたら?」とすすめてみましょう。手順が何ステップもある提案は、実行するのがむずかしく、かえって負担になってしまうので避けてください

してはいけないこと

「一生懸命やったって、できなければ意味ないでしょ!」というような結果だけに注目する言い方は禁句です

自分は物事をきちんとやり遂げることができなくなってしまったんだ、役に立たない人間なんだ、といろネガテイブな思いを深め、うつ状態になったり、一生懸命やっていることを認めない周囲に怒りをぶつけるようになってしまいます

本人の不安をやわらげるために

本人の不安をやわらげる

以上、認知症初期の対応法を解説しました。

家族が向き合うときに本人の不安をやわらげるための共通するポイントが以下の通りです

  • 本人の話をよく聞く
  • 話しかけるときは、明るく、ゆっくりしたロ調で
  • 根気よく、寄り添う気持ちで、本人のペースに合わせて接する
  • 本人のプライドを傷つけない

なによりも大切なのは、本人が認知症であることを家族が受け入れ、本人の不安をやわらげることです

「自分が消えていく」「暗い穴に吸いこまれるみたい」「頭のなかがおかしい」「なにもわからないし、なにもできない」「こんなはずじゃない」    認知症の初期のころに本人が口にする言葉は、おおいかぶさる不安の大きさととまどい、それから逃れようと懸命にもがく心の葛藤を表しています

この解消できない漠然とした不安はレベルの差はありますが、すべての認知症の初期に存在するものです。したがって、この不安をどうやわらげるかが、認知症の初期だけでなく、全ステージ共通の課題になります

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