「オメガ脂肪酸」は脳に必要な栄養素です
「あぶらっこい食べ物は、体に良くない」、そんなふうに漠然と思っている方も多いかもしれませんが、脂質は体のエネルギーに使われたり、体を構成する細胞膜や血液、ホルモンなどの材料になるなど、なくてはならない大事な栄養素です
ただし、どんな油脂を摂るかが重要です
もくじ
オメガ脂肪酸は脳になくてはならない栄養素
私たちが食事から摂っている油脂は、誘導脂質という脂質の1つである「脂肪酸」です
脂肪酸は構造上いくつかに分類されますが、体に良い油脂、悪い油脂は、その脂肪酸の種類によって決まります
脳に届き、脳を活性化させる栄養学
分類はまず、常温で固まりやすい「飽和脂肪酸」と、常温で固まりにくい「不飽和脂肪酸」の2つに大きく分けられます
飽和脂肪酸は、エネルギー源として大切な脂肪酸ですが、血液の粘度を高めて流れにくくします。また、中性脂肪やコレステロールを増加させる作用があるため、摂りすぎには注意が必要です。しかし、不足すると血管が脆くなるなどの弊害が起こります。バランスを考えて摂取することが大切です
一方、不飽和脂肪酸には、多価不飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸があり、さらに多価不飽和脂肪酸はオメガ3系列とオメガ6系列に分かれ、一価不飽和脂肪酸にはオメガ9系列の脂肪酸が属しています
そして、「必須脂肪酸」として、食品から優先的に摂る必要があるとされているのが、オメガ3系のDHA(ドコサへキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)、α-リノレン酸、オメガ6系のARA(アラキドン酸)、リノール酸の5種類の脂肪酸で、なかでも特に脳の健康に良いといわれているのが、DHA、EPA、ARAです
飽和脂肪酸
・ステアリン酸
バターなど
・パルミチン酸
パーム油・ラード・バターなど
・ミリスチン酸
ココナッツオイルなど
・ラウリン酸
ココナッツオイルなど
不飽和脂肪酸
・αーリノレン酸、DHA、EPA(オメガ3)
亜麻仁油・エゴマ油・チアシード油など
・リール酸、ARA(オメガ6)
紅花油・コーン油・ゴマ油・大豆油・落花生油など
・オレイン酸(オメガ9)
なたね油・米油・オリーブオイルなど
認知機能の低下を防ぐにはDHAとARAを補給しよう
人体では、DHA、EPA、ARAは、体を構成する成分として、全身に広く存在します。DHAとARAは特に脳のリン脂質に多く、EPAは血液に多く含まれ、それぞれ脳の働きをサポートしています
私たちか思考したり記憶したりするときに重要なのが脳の中のニューロンのネットワークです。脳に入った情報は、ニューロンの先端のシナプスを経由して伝達されるわけですが、その情報伝達力が強くて速いほど、脳の働きは活発で、記憶もしっかり定着します
そして、その伝達力のカギを握るのが、ニューロンの細胞膜の柔らかさです。年齢とともに物覚えが悪くなるのは、この細胞膜が硬くなり、流動性が失われることが一因です。オメガ脂肪酸が脳に良いとされるのは、1つにはこの細胞膜をしなやかにする働きがあると考えられているからです
DHA
また、DHAは、樹状突起を増やしたり、軸索の成長を促す働きもあります。さらにDHAには、ニューロンにダメージを与える活性酸素の肖去能力を高め、サイト力インと呼ばれる炎症性物質の過剰生産を抑制する働きがあることもわかっています
最近の研究では、DHAにはNGF(神経成長因子)という脳細胞の働きを高めるのに不可欠な栄養素の産生量を増やす働きがあることもわかってきました。NGFは現在、アルツハイマー型認知症の改善に役立つ栄養素として注目されている成分の1つです
一方、アメリカの多くの研究からは、ARAを摂取することによって、赤ちゃんの精神面の成長や、学習能力、記憶能力の向上が期待できる、と報告されています
そのため、アメリカでは、ARA配合のべビーミルクが一般的になってきています。ちなみに、2007年のコーデックス委員会(世界保健機関により設置された国際的な改府間機関)総会では、べビーミルクの規格において、DHAを配合する場合、同量以上のARAの配合を推奨することが合意されています
DHAとARAは、脳の中でも学習・記憶能力を司る海馬に多く含まれていますが、しかし、それは、60歳代を過ぎる頃から、著しく減少し始めることが確認されています。従って、認知機能の低下を防ぐには、DHAとARAを補給することが望ましいといえます
さらに、DHAには、赤血球などの血液中の成分を柔らかくする働きがあります。「血液ドロドロ」といわれる状態は、血液中の成分に柔軟性がなくなり、血流が悪くなる状態のことです
そして、血液ドロドロの状態が長く続くと、全身の細胞に栄養分や酸素が行き渡らず、さまざまな疾患を引き起こします。脳も当然、被害を受けます
DHAはその血液中の成分を柔らかくするのですから、結果的に、血液サラサラ効果があるというわけです
また、DHAには、動脈硬化の原因であるLDLコレステロールや中性脂肪を低下させる働きもあります
油脂はバランスよく摂ろう
一方、EPAには、血小板が固まるのを防ぐ作用(血小板凝集抑制作用)があり、こちらも血液サラサラ効果がよく知られています
このことは、DHA、EPAを豊富に摂り入れることによって、血流が改善され、アルツハイマー型認知症や、脳血管障害を原因とする血管性認知症などの予防につながるといえるのです
一方、同じオメガ3系のα-リノレン酸は体内に入ると一部がDHAやEPAに変わり、同様の働きをします。年齢や性別によって目安の摂取量は異なりますが、加えて、リノール酸が多く含まれる油の摂取とのバランスが指摘されています
すなわち、リノール酸も体内で合成できない必須脂肪酸ですが、摂りすぎると血栓ができやすくなるなどの弊害があります。α-リノレン酸はそれを打ち消してくれるので、「リノール酸」を摂ったら、「α-リノレン酸」を摂取することが望ましいとされています