認知症患者の場合、「トイレがどこかわからない」「ズボンや下着をおろして排泄することがわからない」ことなどが原因で失禁に至ることが少なくありません(機能性尿失禁)
このような状況に麻痺や関節の拘縮などが加わると、認知症患者本人や家族介護者にはおむつ交換、更衣、身体の清潔、汚れ物の洗濯などの身体的経済的・心理的負担が増大しかねません
認知症と排泄トラブル
便秘は、水分や食事摂取量の減少・身体の活動性の低下などによって生じ、認知症高齢者はこれらの状況が複合的に起こりやすいです
加えて、排便の状況や腹部膨満感に関する自覚的な症状を自ら訴えられないことや、認識できないことも少なくはありません
そのような中で下剤の使用が下痢を招くこともあります。排泄が安定した状態は、認知症患者の快適な食事摂取や睡眠をうながし、精神・心理的な安定をもたらします。また、家族や家族介護者の介護負担の軽減にも結びつきます
認知症患者の家族は、日々の生活の中で認知症患者の排尿や排便の状況を見極め、それらの障害を引き起こす原因や要因を迅速かつ的確にとらえてる必要があります
家族や家族介護者に加え、主治医・ホームヘルパーをはじめとするほかの保健・医療・福祉専門職者との連携のもと、予防が吋能な失禁ならびに便秘・下痢などの予防と改善、排泄(排尿・排便)パターンの確立・維持・向上を図り、状況を踏まえて家族介護者やホームへルパーが的確に対応できるようにします
対応が必要な排尿・排便トラブル
頻回な尿意の訴え | |
失禁 | 便失禁 |
尿もれ、尿失禁 | |
おむつ外し | |
便秘 | |
下痢 | |
排便のコントロールができない(下痢と便秘の繰り返し) |
排泄トラブルへの対応方法まとめ
- 失禁の根本的な原因への対処、自尊心への配慮(叱責しない)
- 定期的な排泄の声かけ・誘導・介助
- 失禁パンツ・尿取りパッド・おむつの使用
- 着脱しやすい衣類、敷布団またはベッドのマットレスを広範囲に覆う防水シーツの利用
- 夜間のみ吸水量の多いおむつや尿とりパッドの使用、ポータブルトイレの使用、失禁処理しやすい床材にする、汚物処理のための専用の洗い場の確保など
- 便秘への水分の補給、食事内容の調整、定期的な排泄の声かけ誘導
- おむつ・尿取りパッドなどの使用の工夫(立位可能—パンツ型紙おむつ、立位不可能—組立て型の紙おむつ、尿取りパッドとの組み合わせ、尿取りパッドの使用
- トイレの故障防止への対応(尿取りパッドを水洗トイレに流さないエ夫(金網の設置・専用の容器の設置)、頻回に流す状況であれば尿取りパッドを使わずにパンツ型紙おむつのみとするなど)
- 頻回な水洗トイレの水流しへの対応(流水量の制限の工夫(タンクの給水栓の調節など))
- 環境の調整(トイレであることのマークの掲示、手すりをつけてつかまりやすくする、暧房便座の設置、便座と便器が識別しやすいようにする、照明の調節など)
- 泌尿器科医・主治医の診察、医療機関(泌床器科・消化器内科・消化器外科)の受診にかかわる支援
- 薬剤の適切な使用と管理(下剤などの頓用薬の使用量の調整)
認知症患者の排便トラブルの例
「ずっと昔から、私は、便秘がひどくて……と言い、「漢方薬を煎じて飲んでいる」と聞く。でも、家族は「トイレには何度も行くが便秘の状況はまったくわからない」と言う
その認知症患者が利用しているトイレ(本人の居室近くにある)を確認すると、便座の周りは便と尿で汚れている。便秘ではなく下痢が見られるようです
そんな時は腹部症状と下着の汚染の状況を確認します。腸の動きがよいようなので、漢方薬の使用はしばらく中止しました。そして、水分を多めに摂ること、さらに、ホームヘルパーへ定期的に電気湯沸かしポットに給水することを依頼したところ下痢は1週間ほどでおさまりました
その後は、主治医が処方している下剤を1日1回のみ内服するようにしたことで、下痢はなく便秘の訴えはほとんど聞かれなくなりました
認知症と失禁
失禁の原因や程度はさまざまです。しかし、「このところ失禁が繰り返されている」という理由で、すぐに紙おむつを使用するというのでは、家族や家族介護者の安心感は保障されても、認知症患者の失禁はより固定的なものになりかねません
現在、失禁に対しては綿素材の失禁パンツ、尿取りパッド、はくタイプの紙おむつ、組立て型の紙おむつなどがありますが、その吸水量はもとより、コストなどにも差があります
まず、失禁に対する観察を行い、経済性も踏まえて有効な排泄用品を選定しつつ、排泄介助の具体的な方法を明らかにして、実行していくようにします
特に、夜間はベッドのそばにポータブルトイレを設置したり、吸水量の多い尿取りパッドや紙おむつにして認知症高齢者の安眠をうながし、家族介護者の負担を増大させない方法を明らかにすることが大切です
加えて、便失禁に対しては、定期的な排泄を目指して、必要時には、摘便、浣腸や座薬による排便処置を確実に実施していくようにします